12-2 イコライザ


その名(等価器)の通り、信号が伝達される課程で変化してしまった音質を、元々その音がもっていた音質になおしてやろうというのが、本来のイコライザーの持っている意味なのだ。ところが、そういう意味の他に、現在では積極的に音作りをする道具というような意味もある。前者の代表はレコードやテープレコーダのイコライザで、後者の代表は、ミキサに内蔵されているイコライザや、グラフィックイコライザ・パラメトリックイコライザなどだ。

12-2-1 レコードのイコライザ

    アナログレコードは音の振動を、溝を刻むことによって記録している。ところが、この溝を刻むときに、バカ正直に刻むと低音部分で溝が広くなりすぎて、針飛びを起こしてしまうし、高域は溝の振幅が狭いために、十分なS/N比を維持できないという欠点があるのだな。これを防ぐため、アナログレコードでは、カッティング(溝を刻む作業)の時に、高域を上げて低域を下げてている。これをまともに再生するためには、プリアンプ部で高域を下げて低域を上げる必要がある。これは一般にRIAA曲線と呼ばれる周波数特性を使うんだけど、この高域を下げて低域を上げる回路を、元の音に戻すものという意味でイコライザーという。

    RIAA曲線の計算式を知りたいという酔狂な人は、ここでどうぞ。エクセルのスプレッドシートでのダウンロードもできるよ。





12-2-2 テープレコーダーのイコライザ

    磁性体に磁力を与えて信号を記録し、その記録された磁力の強さに応じて、信号を再生したとすると、周波数が倍になると音量も倍になるという特性を持ってしまうのだ。これは磁性体の持つ特徴なのでいかんともしがたい。よってこれを周波数によって音量差が出ないように、高域に行くに従って出力信号も下がるようにしたのが再生イコライザーだ。これは特性こそ違うものの前出のレコードのイコライザと発想は一緒だ。

    またテープレコーダのもう一つのイコライザ、録音イコライザは、物理的な影響で乱れた周波数特性を補正する再生イコライザーの補助的役目だ。





12-2-3 ミキサーの中のイコライザ

    ミキサのチャンネルモジュールなどにあるイコライザは、比較的最近になって装備されたもので、60年代のミキサは単なる音量を調整する機械だったのだ。それが音質の補正のためにイコライザがチャンネルに付きはじめ、最近では音作りの中心的存在として使われているわけだ。高域と低域をコントロールするだけの簡単なイコライザーから、5ポイント以上の高機能のものもある。単体でエフェクタとしてあるグラフィックイコライザなどのイコライザと区別するために、ミキサについているイコライザは「トンコロ」(トーンコントロール)といい分ける人もいる。

    その辺にいた音響屋に聞きました。
    Q  ミキサーのチャンネルについているイコライザーのことをなんと呼んでいますか?
    イコライザー
    イーキュウ
    トンコロ
    9名■■■■■■■■■
    5名■■■■■
    2名■■

    ま、誰として等価器とは呼ばないわけだな。(笑)





12-2-4 シェルビングイコライザ(Shelving Equalizer)

    シェルビングイコライザシェルビングイコライザ
    図12-2-1 シェルビングイコライザ(低音)
    ミキサについているイコライザが2ポイント(低音と高音のコントロールのみ)の場合、ほとんどがこのイコライザだ。図12-2-1のように、周波数特性が棚のようになることからShelf(棚)の名前がある。(末尾がfの場合はfをvに変えてingとかesを付けるんだったよね。)

    ある周波数からそれ以下やそれ以上をざっくり上げ下げする方式で、音の変化が非常にわかりやすく、思った効果が得られやすいために、コンシュマオーディオ(いわゆるステレオやラジカセなど)によく使われる。ステレオセットのアンプでよく見かける「Treble」(トレブル=高音)「Bass」(ベース=低音)というトーンコントロールは、まずこのシェルビングイコライザのことだと思っていい。イコライザが同時にコントロールできる周波数の数(簡単に言えばつまみの数)をポイント数と呼んでいるんだけど、原理上シェルビングイコライザは2ポイント以上のものは出来ない。(2つ以上設定してもだぶってしまうだけだな)

    シェルビングイコライザは、ポイント周波数とコントロール範囲で特性を表すことが出来る。つまり、「100Hz & 10kHz +15dB〜-15dB Shelving」というような表記がしてあるわけだ。ポイント周波数は中級機まで固定であることが多いが、上級機では連続可変出来るようになっている。固定の場合多いのは、低域100Hz・高域10kHzで、可変出来る場合は低域20〜1kHz・高域1kHz〜15kHzぐらいのものが多い。コントロール範囲はどれだけ周波数特性を変化させられるかで、通常はプラスマイナス12〜18dBのものが多い。

    フィルタの場合は、効き始めから-3dB下がったポイントをカットオフ周波数と呼んでいたけど、このシェルビングイコライザの場合ポイント周波数は、コントロール範囲が最大になる周波数を指す事に注意。また図12-1-1でも判るように、ポイント周波数をあまり低域や高域にとると、イコライザの効果が無くなってしまう。具体的に言うと低域イコライザの場合50Hz以下、高域イコライザの場合は16kHz以上だ。ただし後述のピーキングイコライザの場合はこの限りでない。





12-2-5 ピーキングイコライザ(Peaking Equalizer)


    ピーキングイコライザ
    図12-2-2 ピーキングイコライザ
    ピーキングイコライザはその名の通り、周波数特性に山(もしくは谷)を作るタイプのイコライザだ。ポイント周波数とコントロール範囲の他にQというパラメータも登場する。

    ピーキングイコライザの場合はポイント周波数が、もっとも山や谷が大きい部分(=中心)となるので、センター周波数や中心周波数といわれることもある。通常このポイント周波数は段階的もしくは連続的に変化させられるように出来ているが、簡易型では固定されていることもある。例えば100Hzと10kHzのシェルビングイコライザに加えて1ポイントピーキングイコライザが追加されている場合は1KHz、(Low Mid Highという表示になっていることが多い。)2ポイントの場合は、500Hzと2.5kHz辺り(Low Low-Mid High-Mid Highという表示になっていることが多い。)になることが多いようだ。

    Qとはポイント周波数を中心としてどのくらいの範囲をコントロールするかを決めるものだ。単位は付けないんだけど、私はオクターブの逆数なのではと思っている。誰かご存じの方はご教授を。ちなみにQの値は大きければ大きいほど山や谷がきつくなるのだけど、Qのコントロールつまみをどっちに回すと大きくなるかは、ミキサによって違う。図12-2-2では、右に回すとQが小さくなるようになっている。

    ピーキングイコライザは、狙っている場所をダイレクトに変化させられる上に、他への影響が少ないので、音作りには強力なツールとなるけど、反面狙いを外すと効果がよくわからなくなるので、一般用のイコライザにはあまり使われない。





12-2-6 パラメトリックイコライザ(Parameteric Equalizer)

    パラメトリックイコライザ
    写真12-1-1 パラメトリックイコライザ
    パラメトリックイコライザは、基本的にピーキングイコライザを数個組み合わせて一つにまとめた機械という認識でいい。要は「周波数(Frequency)」「増減値(Gain)」「幅(Bandwidth=Q)」という「変数(Parameter)」が、自由にコントロールできるイコライザという意味だな。製品としてのパラメトリックイコライザ(パライコ)は、8つ程度のピーキングイコライザを装備し、1ポイント8チャンネル・2ポイント4チャンネル・4ポイント2チャンネル・8ポイント1チャンネルというように使い分けられるものが多い。PAではあまり使われないが、フロントスピーカの調整に用いられることもある。ただし聴感で使うにはプロでも調整が少し難しいので、測定器と一緒に使われることが多い。(逆にそのようなときには後述のグラフィックイコライザよりも力を発揮する)





12-2-7 グラフィックイコライザ(Graphic Equalizer)

    「グライコはやっぱ、イルミで、ケンウッドじゃん。」と、田舎のヤンキーまでが口にするほど一般に認識されたグライコがグラフィックイコライザーだ。(ちなみに、ケンウッドのカーステ用グライコは、イルミネーションが派手なので有名)

    その原理はQを一定にしたピーキングイコライザの集まりで、周波数に対して均等にピーキングイコライザを配備する。Qは隣り合ったピーキングイコライザとちょうど補完するように決められる。民生用の機器では5ポイント以下(5バンドとか5素子という言い方もある)のものも堂々とグラフィックイコライザを名乗っているが、プロ用のものはだいたい7ポイント以上になっている。プロ用のものは1kHzを中心にして、(という規定がある)可聴周波数帯(約20Hz〜20kHz)を分割するわけだから、ポイント数が多ければ細かく、少なければ大きく分けることになる。

    1オクターブイコライザとは、1kHzを中心に周波数を2kHz・4kHz・8kHz・16kHzというように倍々したものと、500Hz・250Hz・125Hz・63Hz・31.5Hzいうように半分にしていった周波数に分割していく。そうすると10分割になるので1オクターブグラフィックイコライザ=10ポイントグラフィックイコライザである。民生用のオーディオグラフィックイコライザでは、20Hzから倍々にしていって、20Hz・40Hz・80Hz・160Hz・320Hz・640Hz・1.2kHz・2.4kHz・5kHz・10kHz・20kHzとした11ポイントのものや、両端を省略した9ポイントのものもある。

    一番細かいのは1/3オクターブグラフィックイコライザで、ポイント数は30になり、25Hz・31.5Hz・40Hz・50Hz・63Hz・80Hz・100Hz・125Hz・160Hz・200Hz・250Hz・315Hz・400Hz・500Hz・630Hz・800Hz・1kHz・1.25kHz・1.6kHz・2kHz・2.5kHz・3.15kHz・4kHz・5kHz・6.3kHz・8kHz・10kHz・12.5kHz・16kHz・20kHzがポイント周波数となる。PAの現場、特にモニターにはこの1/3イコライザがよく使われ、エンジニアは知らない間にこの30ポイントを暗記してしまっている。「2.5kを2デシ落としで、1.6kも同じだけいっちゃってください。てすてす。あ?これ何だろう、500かな?あ、630だ。こいつをざっくり6デシいっちゃってください。」というような会話を毎日してればねえ。(笑)

    グラフィックイコライザの周波数分割表





12-2-8 クロスオーバ(Cross over)

    クロスオーバとは主に、スピーカシステムで、高音用スピーカ用と低音用スピーカ用などというように、信号を分ける働きをするものを言う。また正式に言うと、クロスオーバネットワークなので、「ネットワーク」という呼び方や、「デバイディングネットワーク」と呼び方をすることがある。

    コンデンサやコイルなどの受動素子を使い、パワーアンプとスピーカの間に挟み込むので、電気的な性能面では次述のチャンネルデバイダを使ったマルチアンプシステムにはかなわないが、簡便さとクロスオーバとスピーカの相性などで、一般のオーディオのマルチスピーカシステムや、PAのモニタスピーカなどには、このクロスオーバがよく使われる。(通常エンクロージャの中に入っている。)





12-2-9 チャンネルデバイダ(Channel Divider)

    チャンネルデバイダ
    写真12-1-3 チャンネルデバイダ
    省略して「チャンデバ」と呼ばれたり、「アクティブクロスオーバー」とか「アクティブネットワーク」とか呼ばれることもある、能動素子(ICやトランジスタや真空管など)を用いた周波数分割器。クロスオーバと違い、ミキサなどの出力の直後に(つまりパワーアンプの前に)接続して使われる。

    このチャンデバと複数のパワーアンプの組み合わせでスピーカを鳴らすことを「マルチアンプシステム」と呼び、システムが大がかりになり、調整も難しくなるという欠点はあるものの、細かい調整が出来るのと、大出力システムが組めることから現在のPAでは主流となっている。(スタジオモニタは、クロスオーバタイプのものとマルチアンプシステムのものと半々ぐらいかな。)

    チャンネルデバイダは能動素子の特徴を活かして、鋭いフィルタ特性(-24dB/octなど)をもつものが多いが、システムによってはなだらかなフィルタ特性が合うこともあるので、フィルタ特性が切り替えられるものもある。また周波数帯ごとに位相差を持たせられたり、リミッタを内蔵していたりするものもある。