一般の人は音楽を何で聴いているかというと、CDであったり、カセットであったり、その他のものであったりする訳なんだけど、いずれも現在は2チャンネル、つまりステレオのメディアで聴いているわけだ。(まだテレビはモノラルの物も多いけどね)たとえ大金持ちの道楽で金に糸目を付けずにリスニングルームを作ったとしても、MTRとレコーディングミキサと周辺機器を揃える人はいない。
つまりMTRのテープのままでは一般の人が聴くことが出来ないので、MTRの4〜48以上のトラック数を、「ダウン」して、2トラック(この場合は=2チャンネル=ステレオ)にしてやる必要があるわけだな。本来はこの意味で、ミックスダウン(トラックダウンとも言われる)という言葉があるんだけど、現在ではトラック数の減少という消極的な意味のみならず、高度な音作りをしてバランスをとる作業のことを指すのだ。エンジニアの一番の腕の見せ所と言ってもいいだろう。(つまり音響屋の華の部分だな)故に要求される技術もかなり高度になってくる。機材のことだけでなく楽器のことや電気知識、果てはプレーヤの心理やプロデューサーの好みまで知る必要がある。(あ〜大変)
どのようなエフェクト処理をするか大体の構想を練っておく。もちろんミックスダウンの途中で、「これにエフェクタかけると面白いんじゃないかな。」という発想は大事だし、本来のエフェクタの使い方なのかもしれないけど、全部行き当たりばったりでやっとると、それこそわやだでかんわ。(名古屋のヲヤヂ)
つまりエフェクタのリターンはステレオが多いので、ある程度どこに何を使うか、そのエフェクトのリターンはどこにするかなどを考えておかないと、すぐミキサのチャンネルがいっぱいになってしまうわけだ。
次に具体的に何の音源にどのエフェクタを割り当てるのかを決めておく。たとえば「キックにはウーレイの#1178の後にバリーピーポーのKeypex、さらにクラークテクニックのDN-33をかけて、ゲートエコーをヤマハのSPX-900で」とかね。使いたいエフェクトと物理的な制限(エフェクタの数や性能など)の兼ね合いを良く考えておこう。
ミキサのチャンネル割りを考える。MTRに入っている全ての音をミキサに立ち上げて、エフェクタのリターンも含めて全てミキサのチャンネルに収まれば、何もいうことはないんだけん、それ以上になった場合はミキサの補助入力で対処できないか考えてみる。
ミキサには通常AUX INなどと表示されている補助入力が数系統あるのが普通で、これらの補助入力は、イコライザが付いていない、もしくは簡単な物だったり、パンが固定だったり、フェーダがつまみだったりする訳なんだが、(だから補助入力なんだけど)良く考えてイコライジングなどがさほど必要でないエフェクトのリターンに使用すると、無意味にチャンネルをつぶさずに済むわけだ。
それでもまだチャンネルが足りない時は、MTRのトラックを全て立ち上げる必要があるかどうかを考える。ミックスダウンに必要のない同期信号やドンカマ、NGのテイクなど不必要なものはミキサに立ち上げずに、それで空いたチャンネルにエフェクタのリターンなどに使おう。これでもまだチャンネルが足りない時は、サブミキサを使って、エフェクタのリターンやタムなどを集めてチャンネル数を増やすしかない。
今度はエフェクタへの送りを考える。直列型のエフェクタ(コンプレッサ、ノイズゲート、グラフィックイコライザなど)は、それぞれのチャンネルにはさみ込んでやればいいけど、並列型のエフェクタ(リバーブ、ディレイ、コーラス、エキサイタなど)はミキサ補助出力から送り出してやらなきゃならん。並列型のエフェクタへの送りは、AUX OUTという表示のところからポストフェーダで送ることが多いんだけど、この数がそれほど多くないんだな。(48チャンネル程度で10個くらいが相場)
この補助出力を使い切ってしまった場合には、ボーカル専用のリバーブのように1つのチャンネルにしかかけないものを、パッチベイで該当チャンネルの信号を分岐したり、ミックス時には通常使わないMTRへの送りを使うなどする。この方法ではエフェクタへの送りがプリフェーダーになってしまったり、該当チャンネルのイコライジング前しか信号を取り出せなかったりするので、それが問題にならないチャンネル(例えばイコライザはエフェクタに付いているので対応できるし、一度決めたら音量は一定のチャンネルなど)に使うのが吉。
MTRと2トラックレコーダのクリーニングをする。
プランに従ってエフェクタなどのパッチングをする。
テープレコーダにテープをセットする。
ミキサから1kHzの基準信号を出し、ミキサの2MIX(STEREOという表示のものも多い)のVUメーターを0VUに合わせる。この状態のまま、オープンを使用する場合はインプットモードにして、インプットボリュームでオープンテープレコーダのVUメーターを0VUにあわせる。(というか、何もしなくてもそういう調整になっているはずなので、もし違った場合には他を疑った方がいい。)PCMプロセッサを使用する場合はPCMプロセッサのメーターに0VUの表示があるのでとりあえずそこにあわせておく。DATを使用する場合は、DATのインプットとテープの切り替えのあるものはインプットにし、無いものは録音一時停止状態にして、DATのメーターをとりあえず-12dB位にあわせておき、後は実際に音を出した時にマージンの表示を見ながらDATのインプットつまみで微調整をしよう。カセットはまあ適当に信号が来ていることを確認できればよしとしよう。(B型)
OTARIのオープン2トラックを使用している場合は(MTR-10Jなど)STOP/LOADを1回押しておく。こうすることによってテープレコーダがリール径やテンションを判断するのだ。これをしなくてもプレイボタンを押せば録音や再生ができるけど、最初の数秒間はテンションコントロールが正確には機能してくれない。テープをかけ終わったら、リプロモード(緑色のLEDの所)にしておく。
オープンの場合は基準信号を入れる。後で調整する側からみれば色々な周波数の信号が長めには言っていた方がやり易いんだけど、大事なテープをあまり浪費するわけにも行かないので、1kHz30秒、10kHz10秒、100Hz10秒、1kHz10秒という全1分コース(前払い制・チェンジなし。明朗会計)でいいだろう。基準信号の周波数を切り替える時にはテープをいちいち止めなくても、ミキサのオシレーターの周波数をぱちぱちと切り替えるだけでいいよ。
オープン以外のものは特に指定のない限り基準信号は特に入れなくてもいい。ちなみにカセットに入れる場合はの基準信号は400Hz。
基準信号を入れたら、スレート(ミキサ内蔵のマイクからテープレコーダに録音できる機能)を使ってクレジットを入れておく。この録音レベルはうるさいことはいわないが、やたら小さかったりその逆はないようにね。
以上の作業が終わったら、実際に録音するまでかなりスタンバイ状態となるので、オープンテープの場合は、テープのアンロード(テープをたるませて、キャプスタンの回転を止めた状態。「テンションはずす」という言い方もする。)をしておこう。MTR-10Jの場合はEDIT/UNLOADを2回押しておけば自動的にアンロードの状態になる。
以上の準備ができたらいよいよミックスダウンの開始だ。人によっては全体を出しながら個々の音決めを行ったほうがやりやすいという人もいるけど、1つずつ音決めを行ってから一度全体の音を出して、また1つずつ微調整をするというのを繰り返したほうがいいと思う。
音決めはまず1つのチャンネルをオンにして、フェーダーを基準位置くらいまで上げ、必要に応じてエフェクト処理をしたりイコライザ処理をする。全体の音といっしょに混ぜた時に音のイメージが変わることも多いので、この段階であまり根を詰めて音決めをしてしまうと、かえってウラにはまるぞ。ただしノイズゲートだけは、1つずつ設定したほうがやりやすいので、ノイズゲートをかけるチャンネルだけはこの時点でしっかりと設定しておく。
音決めをする順番は別にないけど、一般的なバンドのミックスダウンの時、通常は次のような手順になる。
ドラム
その他パーカッション
ベース
ギター
キーボード
その他楽器
ボーカル・コーラス
じゃあそれぞれについて順番に解説していこう。